プロジェクトストーリー01

水と照らす、再生可能エネルギーの近未来

「新得発電所」新設工事

“電源のまち”の町名を冠した水力発電所建設と
さらなる水力発電設備再開発プロジェクト

運転開始以来60年以上が経過した水力発電設備を再開発。余水放流の有効活用により、最大出力の増加を叶えるべく2022年6月に営業運転を開始した「新得発電所」新設工事プロジェクト。 豊かな水資源をエネルギー源へと活かし、先人たちが拓いてきた道内各地の水力発電設備。そのいくつかが、最新技術と集積された知見で新たな力を備え、再生可能エネルギー源としてカーボンニュートラルの実現に向け近未来を照らし始めている。

PROJECT MEMBER

  • 新得水力発電所建設所
    土木課 土木課長

    武田 宣孝

    1996年入社

    工学部土木工学科卒

  • 渡辺

    新得水力発電所建設所
    電気課

    渡辺 賢太

    2011年入社

    電気科卒

  • 土木部
    電源開発グループ

    後藤 隼一郎

    2016年入社

    工学院環境政策工学修了

既設「上岩松発電所(1号)」から
新設「新得発電所」へ

既存設備を動かし活かしつつ、新設工事を進行

“神々が遊ぶ庭”、“北海道の屋根”とも呼ばれ、広大な地域に標高2,000m級の山々が連なる大雪山系。その山域の一つ、十勝連峰の主峰・十勝岳を源とする十勝川水系上流部は、戦時下から水力発電の適地とされた地域だ。

プロジェクトを進めた上岩松発電所(1号)をはじめ、現在7つの水力発電所が道東地域の電力供給を担っている。上岩松発電所(1号)は、1956年の運転開始から60年以上が経過しており、至近年に水車発電機更新を行う計画があった。その一方で、事前調査によると既存設備を流用しさらなる出力増加が期待できるとの結果が出ていた。そこでどの設備をどう活かすか、その費用対効果はどうかといった検討が行われた。

計画地点の周囲は保安林、送電敷地、道路敷地などに囲まれている。利用できるスペースは限られていることから、発電所の位置の決定や、水圧管路・放水路など水路設備のレイアウト策定に苦労し、プランは何度も変更を余儀なくされた。そして既存設備は流用するが、敷地内の現在とは別の位置に発電所を新設する方が経済性や優位性が高いと判断され、再開発計画としてプロジェクトはスタートを切った。

計画段階から発電所のレイアウトや概略設計などを担当し、その後現地の建設所に配属された土木課の武田宣孝は「今回のような既設設備と近接した工事計画の場合、プロジェクト側の意向だけで計画を進めることは不可能であり、発電所の維持管理を担う保守担当者の意見を伺うなど、その知見を設計に取り入れることは非常に大事だと考えています。実際に現場に入ってからも、保守担当者からの意見で計画を軌道修正することも多くありました」と話す。

現在のレイアウトは、電気・土木・建築部門の担当者たちが意見を出し合い、検討に検討を重ねて完成した最善のプランなのだ。 そうして2019年1月、新得町内に建設所が開所した。その名称は「新得水力発電所建設所」。町にはいくつもの水力発電所が設置されているが、町名を冠したものは無い。そこで町と協議のうえ「新得発電所」と命名し、“電源のまち”を象徴する水力発電所づくりが始まった。

国内希少野生動植物種指定「クマタカ」の存在

計画・設計過程での苦労に重ね、今回の土木工事には大きな難題があった。それは、発電所周辺が国内希少野生動植物種に指定されている「クマタカ」の営巣地だったことだ。クマタカは、後頭部に冠羽があり、腹部、翼、尾の美しい縞模様が特徴の大型のタカで、山岳部の森林に生息している。環境アセスメントの手続きに係る現地調査にて確認され、とくに2~8月の営巣期には工事の影響を低減するよう、施工方法や工程の見直しが必要になった。ここでも事業性確保に向けて知恵が絞られた。

「今回の土木工事は、隣接する上岩松発電所(1号)を稼働させたまま、工事を進めるとともに、音に敏感なクマタカにも配慮して硬い岩盤を発破工事で掘削するという非常に難易度の高いものでした。

100グラム単位で火薬量を調整したり、防音シートを使ったり、1回あたりの施工面積を縮小するなど、施工会社や土木課の担当者と綿密な検討を重ね、発破工事を計画しました。また、既設発電所や送電鉄塔付近には振動計を設置して、そこで収集したデータを次の発破作業にフィードバックしたほか、騒音・振動を考慮しなければいけない箇所では、低振動の非火薬破砕剤を用いるなど、様々な工夫をして施工を進めました。現場のメンバー全員でこの難工事に向き合い、掘削工事が完了したのが2020年3月。最深部から掘削が完了した現場の全景を見上げたときは、感無量でした」と武田は振り返る。

現場では工事と並行して、専門家が環境モニタリングを行った。報告によると、クマタカは巣作りをして繁殖し、ヒナが孵化・成長して無事巣立って行くまでが確認された。水力発電所の現場は、北海道の大自然と向き合う場でもあるのだ。

心臓部の発電機工事から完成、運転を目指して

次のステップとして、いよいよ心臓部となる水車発電機設置へ向けた電気工事が動き出した。電気課の渡辺賢太は発電機および変電設備の設計・工事管理、建築工事との調整を担うべく、2020年3月から現場入りした。「以前に勤務していた保守現場では経験できない、建設現場特有の業務も多くあり、苦労した面も大きかったです。

経験してこなかった仕事は、既存発電所の過去記録を参考にしたり、上司や同僚に相談しながら一つひとつ乗り越えることができました。プロジェクトに従事した直後は目の前のことで精一杯でしたが、自分が設計したものが形になる喜びややりがいを感じることがとても多かったです」と話す。

また、メーカー、工事関係者、他部門の社員など、ときには4者と同時に協議、検討しなければならないこともある調整役を担う中で、自分の意見を一方的に主張するのではなく各所の意見を取り入れつつ“臨機応変に・柔軟に”物事を進めることを大切にしたと言う。学生時代の学びに加え、入社後の資格取得に向けた勉強から得た専門知識も交渉ごとの後押しになっている。

「新得発電所新設工事は本店や建設所など数多くの社員の技術や知識が集約された再開発プロジェクトです。このプロジェクトで学んだ技術や経験の蓄積が、後輩たちにとって今後の貴重なノウハウになることを期待します」と武田。全てが予定通りに進むことは皆無だという現場で、完成していく構造物を目の当たりにし達成感を感じ合いながら、チーム一丸となってゴールを切ることができた。

さらに続いていく、
水力発電設備の再開発プロジェクト

新得発電所に続く、運転開始から80年以上経っている水力発電設備の大規模なリプレース(設備更新)プロジェクトの計画に、土木工事の主担当として関わっているのは、土木部電源開発グループの後藤隼一郎だ。

「社会的にも注目されている再生可能エネルギーの拡大につながり、会社への収益増にもなる重要なプロジェクトです。新規の発電所建設は減少し、再開発やリプレースが増えていく中で、大きな工事を担当できることにやりがいを感じています」と笑顔を見せる。

しかし初めて担当する大きなプロジェクトであり、運転開始から80年という設備はかなり手強い存在のようだ。「昔の図面ではわからない所を確認しに現場に行くと、図面には無い情報、例えば埋設物があることが判明すると、工期の変更が必要となる。しかもそれがコストアップになっては困るので他部署との調整、検討を行うことに。当初の計画から、変更して工夫しての繰り返しです。

また現場は市街地であり、法令も厳しく、周囲の環境にも配慮が必要です。全て自分の目で確かめながら、改めて土木構造物の計算を学び直したり、水力発電における長い歴史とノウハウを持つ会社の過去事例を学び、各担当者と会って意見や教えをもらいながら、一歩一歩計画作成を進めています」と話す。

計画に3年近く、工期は6年以上にも及ぶ予定の大きなプロジェクト。自ら調査、設計し、工事、完成までの一連を経験したい、やり遂げたいという思いをモチベーションに、プロジェクトの完遂に向け走り続けている。


※掲載している内容は取材時点のものであり、所属・組織名が現在の名称と異なる場合があります。