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北海道と本州を結ぶ、新しい
“電気の道”を
プロジェクトストーリー02
北海道と本州を結ぶ、新しい
“電気の道”を
新北本連系設備
新北本連系設備の建設・運用プロジェクト
電力の安定供給をより確かなものにし、これからのエネルギー事業を支えるため、2019年3月に北海道と本州を結ぶ新たな連系設備「新北本連系設備」が運転を開始した。 国内初となる「自励式変換器」を採用し、北海道・北斗市と青森県・今別町を青函トンネルを利用して新ルートで結んだ、前例のない“電気の道”づくり。それは携わった誰にとっても得難い機会であり大きな挑戦であった。
PROJECT MEMBER
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旭川支店 電力部
用地グループ 主任吉川 英佑
2008年入社
法学部卒
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釧路支店
電力部送電グループ上田 敏史
2010年入社
理工学研究科
基礎理工学修了 -
札幌支店
電力部通信グループ長崎 晃
2011年入社
情報科学研究科
メディアネットワーク修了 -
今別ネットワークセンター
変電課 主任佐藤 森
2010年入社
理工学部
電気情報生命工学科卒 -
工務部
系統運用グループ泉 裕太
2008年入社
工学研究科
電気電子工学修了
陸に98km、海底に24km。122kmの電気の道の新設を
安定供給をより確実に、緊急時に備えるために
北海道から九州まで、国内の4つの島は全て電気の道で繋がっている。隣接する電力各社の発電、送電・変電・配電設備からお客さまの設備までの電力系統を接続する「連系」。これにより、電力の需給バランスを調整し安定供給を保ち、電力不足や停電などの緊急時の対応にも備えている。
北海道の電力系統規模は360万kW程度と、エリア面積の差はあるにせよ東日本の4,200万kW、西日本の5,500万kWに比較して小さい。さらに本州と繋がる連系設備の容量も少なく、今後の安定供給や緊急時の電力確保を踏まえると、さらなる増強が望ましかった。
また、北海道の恵まれた環境を活かした電源として期待されている、風力発電などの再生可能エネルギーの導入拡大にも連系設備が必要であった。こうした背景から、2019年3月の運転開始を目指し、8年にも及ぶ新北本連系設備の建設・運用プロジェクトが立ち上がった。
調査や設計といった計画段階を経て間もなく、吉川英佑は基幹系工事センター用地2グループのメンバーになり、北海道側と青森県側の架空送電線、変換所建設に必要な用地確保の交渉にあたった。
「プロジェクトを担当したいと上司に意志を伝えていましたが、仕事が始まるとやはり今まで担当したことのない大きなプロジェクトに緊張しました。
青森県側は東北電力株式会社(現:東北電力ネットワーク株式会社)様と連携しながら進めました。契約方法など当社と違う部分も多かったため、ワークショップを行い、知識や理解を深める機会を持ちました。そこから、綿密にすり合わせを繰り返し、一つひとつ問題点を解決して補償基準を作成していきました」と当時を振り返る。また、このプロジェクトでは情報連携の重要性を実感したという。
「私の仕事は建設用地の確保ができれば一区切りですが、自分が担当した土地に鉄塔が建ち上がると大きな達成感を感じます。何十年と形に残る仕事をしているんだという手応えがあります」
269基の鉄塔建設と青函トンネル内のケーブル敷設
建設用地の確保を受け、送電鉄塔の建設工事と附帯工事の主担当として、上田敏史は基幹系工事センター送電2グループに配属された。この工事は、北海道側、青函トンネル内、青森県側と3エリアに分かれ、上田は北海道側の北斗変換所からトンネルに繋がる吉岡ケーブルヘッドまでの送電鉄塔205基、架空送電線77kmの建設を指揮した。
建設地はそのほとんどが山間部で、工事用資機材はヘリコプターで運搬、施工チームは林道を車で1時間走り、山道を1時間ほど歩いて現場に到着するという、強靭な体力と気力を要するものだった。ヘリでの資機材運搬も工事も天候に左右される上、道南地方は降雪量が比較的少ないとはいえ、冬季は施工ができない。
決められた期間内に工事を完成させるため、厳しい条件下、現場ではどのようにリーダーシップを執っていたのか。「コミュニケーションを大切にしていました。工事の進め方や不明な点など、極力対話をして、解決できるように、とにかくメンバーと向き合って話す時間を取っていました。
メンバーのモチベーションになっていたかどうかはわかりませんが、大きなプロジェクトであり公共性が高く、北海道のためになる素晴らしい設備を造っているんだという思いも共有していました」と振り返る。送電鉄塔と送電線の工事を終えた後、使用前の検査を受ける。
検査合格の知らせを受けた時には、自身の達成感よりも、施工チームへの感謝の思いが込み上げてきたという。チームを組んでいただいた元請会社3社のそれぞれの責任者にすぐに電話し、心からの感謝の言葉を伝えたそうだ。
一方、既存の北本連系設備は津軽海峡を海底ケーブルで結んでいた。しかし、新北本連系設備では青函トンネル内の作業坑に電力用と通信用のケーブルを敷設した。この敷設工事をはじめ、連系設備各所の通信設備に関する工事に関わったのが、函館支店電力部通信グループに在籍していた長崎晃だ。
1年という短い時間だったが、今別変換所や青函トンネル内の工事を受け持ち、様々な通信設備の知識を会得しながら工事の経験を重ねた。
「変換所もトンネル内も、光ケーブルの設置場所は非常に狭く、明確な指示と繊細な工事が求められ、難しい現場でした。重大な任務だと責任を感じましたが、何もない所に新しいものを造るというワクワクする気持ちも持って向き合った、自分にとって特別な1年でした」と話した。
国内初となる「自励式変換器」採用を
コンセプトに掲げて
“北海道のために”と全員が思いを一つに
電力系統の連系方法には、交流電力をそのまま送電する交流連系と、直流に変換して送電する直流連系がある。北海道電力と東北電力間の既存の連系設備は、直流連系になっている。
北海道内も東北電力エリア内も電力系統は交流で運用されているが、直流連系により連系相手の系統事故の影響を小さくでき、とくに規模が小さい北海道の電力系統を守るためのメリットとなることが直流連系を行っている大きな理由の一つだ。
そしてこの直流への変換を行う設備に国内初となる「自励式変換器」を採用したのである。これまでの他励式と大きく異なるのは、大規模停電時など北海道の交流系統に電源がなくても、連系相手の系統からの直流送電のみで電力供給ができることだ。最新の半導体技術によって実現した、まさに国内初の新たなシステムである。
工務部直流連系システムグループの配属となり、自励式変換器採用という大きな使命に向き合った佐藤森は「当社としても初めてのことで、わからないことが多い状態でのスタートでした。しかも私は、大学では電気を専攻していなかったんです。でもそのことがなんでも吸収しようという原動力になりました。
そうする中で、学んでいった点と点が線で繋がるように生きてきて、仕事への理解が深まり興味も倍増し、より能動的に行動できるようになっていきました」と話した。
佐藤は、メーカーの工場に4ヶ月間出向してシステム設計にも挑んだ。「系統をより安定させるため、メーカーの方々とも北海道をより良くするためにと思いを同じくし、システム設計にのめり込みました」
その後、異動した基幹系工事センター変電2グループでは2つの変換所新設工事の管理を担った。
最も苦労したことを問うと工程管理が難しかったとの答え。「2019年3月の運転開始は決定事項で、それを絶対に守るため、メーカーの方々も、現場の施工チームも、通信や送電のグループも全員が一丸となりました。
多くのトラブルを乗り越えて期日に運転を開始できた時には、自分が考えた設備が目の前で動いていることにただただ嬉しいという思いになりました」と笑顔を見せた。
前例のない仕事への重責は、大きなやりがいに
変換所などの工事に並行して、工務部系統運用グループの泉裕太は、北海道エリアの系統状況を考慮した新北本連系設備と既存の北本連系設備の潮流制限設定値の検討を進めていた。
直流連系は交流連系と異なり、流れる電力(潮流)を制限できる特徴もあるからだ。「私の仕事は何かを造る、工事をするということではなく、24時間365日様々な状況で電力の品質に影響を与えないよう、電気の流れの指標を決めることです。
国内初で当社としても初めて採用する自励式変換器をどのように運用するのか、たとえば近隣の送電線が故障した時はどうするか、夏と冬といった季節によって違いはあるかなど、数百ケースにも及ぶ状況を一つひとつシミュレーションしデータ解析、評価をしていきました。
大学で学んだ電気計算が役に立ち、運転が開始され自分が検討し設定した通りの潮流を見た時には、達成感と安堵を感じました」と泉。
電力系統では故障が起こるとたった一秒以内に系統や設備にいろいろな影響が出るため、安定供給のためには、こうしたデータ解析が必要であり、既存設備を運用している電源開発株式会社(現:電源開発送変電ネットワーク株式会社)様とも連携し、互いの検討結果を持ち寄り、意見交換を行うミーティングの機会も設けた。
連系先企業、既存設備の運用先企業、国内初の自励式変換器を開発したメーカー。そして、変換所や架空送電線、ケーブルヘッド、トンネル内の建設工事を担った施工チームなど。プロジェクトメンバーと共に、多くの人の力が一つに繋がることで、海を越え北海道と本州を結ぶ新しい電気の道は繋がった。そして今もこれからも、新北本連系設備は北海道の電力の安定供給を守り続けていく。
※掲載している内容は取材時点のものであり、所属・組織名が現在の名称と異なる場合があります。